インタビュー

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風工房の家001 育む家、7年目。 杉並区のお宅を訪ねたのはちょうど長い梅雨が開けたばかりのとても暑い日で、汗を拭いながらお邪魔しました。 アオダモの柔らかな緑の陰をくぐって玄関を入ると、左官の壁の落ち着いた色と適度な暗さが心地よく、すっと涼しい体感と静かさに包まれます。 夫婦と子二人(中学1年の兄と小学2年の妹)のT家が、この家に暮らして7年。 家族はこの春以来、新型コロナ禍の影響で家で過ごす時間がこれまでになく多かったといいます。父は3月末からリモートワークに切り替わり、子どもたちは休校により在宅学習となった日々。 「ダイニングテーブルで仕事をしていましたよ。3食ごはんを一緒に食べて。こんなに長い時間一緒にいるのはなかなか今までにないことでしたね。」 (cp1) 2階は大きな一つの部屋が、キッチン・ダイニングの空間と、学習机や遊び道具のある空間にゆるやかに分かれている。中央部の柱と梁は、ロフトにもなっている。天井は屋根の形に高く開放感あり。天窓からの光も明るい。ロフト空間は家族のライフステージや気分で使い方の変更が時々されるお楽しみ空間
みんなの場所、 それぞれの場所 T家のリビング・ダイニング・キッチンは、二階のワンフロアに子どもたちの学習机や遊び道具の置かれた空間とひとつながりに配置され、梁の構造を利用したロフトが、くつろぎの場所と活動の場所をゆるやかに分けています。 ロフトから柱に沿って結び目を作ったロープは妹の遊び道具です。あっという間にするするとロープを登り、ロフトにあがってまた、梁を伝って懸垂横移動してみせてくれました。「バレリーナになりたい!」という彼女は、ステイホーム期間中、リビングでオンラインのバレエレッスンを受けていたそうです。 延べ床面積は100平米ですが、細かい仕切り壁や廊下をもうけない大きな「箱」をフレキシブルに使い分けるつくりだからこそ、こんなアクティビティも可能で、ぐんぐんと心身が伸びていく盛りの子どもたちの発達を助けています。 (cp2) 通し柱のロープは住み始めてからすぐにつけたという。
ロフト上はあるときは子どもたちのレゴ遊び空間、また訪れた時には、母の発案によりプロジェクターが設置され、スクリーンがわりにシーツを張ったミニシアターとして活用されていました。 ロフト下のソファは父お気に入りのくつろぎの場所だそうです。 仕切りのないフロアにいて家族の気配を感じながらも、それぞれの時間を楽しむための居場所がきちんとあり、のびのびと過ごしている様子。 すみずみの空間までいきいきとした気が満ちて、暮らし・遊び・学び・くつろぎ・楽しみのためによく使いこまれているのが清々しいお家です。子どもたちの成長や家族それぞれの興味にあわせてまたどんどんその使われ方は変化していくのでしょう。 どんなきっかけで風工房に? 「以前はマンション住まいでしたが、音の苦情があって、一軒家に住もうと。2年がかりで建売住宅をたくさん見ましたが、次第にどれも同じように見えてきたんです。」 と母。 「実家はメーカーで建てたのですが、家族に化学物質アレルギーが出てしまったので、作るなら[健康住宅]にしたいという思いがありました。いろいろ調べていくうちに風工房を知り、見学会でいくつかお家を見せてもらって。もうここだ! と。感覚的にしっくり来たというか、雰囲気やあたたかみ、見るだけで他のお家とはちがうのが分かりました。」 (cp3〜5) バレエのレッスンバーと鏡をロフトから見下ろす。 ロフトの下の一枚の小さな仕切壁が空間のアクセントに。 壁に向かって集中の時間。
お話を聞いていると、最初はいろいろな情報を積み重ねて、吟味して「家を選ぶ」賢い消費者の姿勢であったのが、自分自身の感性を信じて「家をつくる」チームの一員という意識にシフトしていったようです。だからこそ、建ち上がったこの家をすみずみまで創造的によく使い、住みこなしていらっしゃるのでしょう。 (cp6〜8) 階段の手すりは松岡信夫氏作のロートアイアン(鍛鉄)。 1階の寝室には今はゆとりあり。 将来的には仕切り家具で分けて娘の部屋ができる予定。 1階のトイレ・洗面所・バスルームは最小限の仕切りですっきりと配置されている。子どもたちの成長にあわせて適宜、布カーテンをつける予定。
「Tさんとは土地探しからのお付き合いです。お互いを知り合う中で信頼関係が育まれ、いい家づくりとなったと思います。家づくりは一方的な関係では成り立ちません。つくり手も含めて、住み手、設計者が協働して初めて成り立つものなのです。そういった意味でみんなでつくる家づくりなのです」と設計者。 (cp9) あえて梁に残した「抜いちゃいけない栓(=車知栓)」。家は先人たちの知恵と技術の結晶だということを、静かに物語っている。
身に添う自然素材のオーダーメイドシャツのように、家と家族がしっくりと調和してよく使いこまれているT邸。家を彩る株立ちの木々が若々しくさわやかで、まさにこのご家族のようでした。 (cp10) 入口のアオダモは時間をかけてじっくりと成長する樹木。 軽やかな樹形が美しい。